亥の子餅
京都在住の料理研究家・小宮理実です。
暦の上では霜降を迎えました。
いよいよ冬の訪れです。
毎年この時期になると、庭の「カクレミノ」の実が色付きはじめます。
少し拝借をしてざっくりと活けてみました。
この季節限定のお楽しみです。
11月の京都と言えば、月初めにお目見えするのが「亥の子餅」。
御所西にある護王神社には、祭神である和気清麻呂を猪が助けたという伝説があり、猪がシンボル。
狛犬ならぬ、狛猪が愛くるしく出迎えてくれます。
遥か遠い昔、宮中では、旧暦の10月にあたる亥の月亥の日亥の刻に、御玄猪の神事が行われてきました。現在は新暦の11月1日に執り行われています。
護王神社の拝殿では、穀物を混ぜた餅をつき、神前に献ぜられたあと、蛤御門を通って御所へ献納されています。
そのお餅を亥の子餅と呼んでいます。
宮司さんがついた餅を食べると、無病息災、子孫繁栄が祈願されるそうです。
いいですよね、ご利益のあるお餅。
そんな神聖な亥の子餅、一度でいいから口にしてみたいものですね。
また、お茶の世界では旧暦の亥の月亥の日は炉開きにあたります。
亥は、陰陽五行の「水」にあてはまり、火伏せのご利益があるとして、亥の月、亥の日に、火鉢やこたつを出す風習が生まれたのだそうです。
さて、思い立ったら吉日。
古人に想いを馳せながら、わたしも亥の子餅を作ってみることにしました。
まずは亥の子餅についての下調べを。
昔は、大豆、小豆、大角豆、胡麻、栗、柿、糖の七種を粉にし作ったようです。
どれもおいしそうな材料ばかりが選ばれています。
今回は、大豆製品である西京味噌、きな粉、小豆、胡麻、栗、柿、粗糖の七種で作ってみることにしました。
あんは求肥餅で包み、やわらか仕上げに。
西京味噌はその求肥餅の中に隠し味として練りこんでいます。
あら、お味噌の香りがしていいお味です。
中のこしあんには、茹でた栗、干し柿を手でちぎったものをしのばせています。
噛みしめるたびに、食感もリズミカル。
上からふうわりときな粉をかけて、猪の毛並みは黒胡麻で表現してみました。
自宅でほっこりいただく気軽さが嬉しいからこの時期は温かいほうじ茶と合わせてみました。
口いっぱいに頬張りながら、無病息災、子孫繁栄、家族のしあわせと安泰を願いましょう。
亥の月も、食から縁起を担ぐ。
京都から、お味噌ふくふく便りでした。
料理研究家 小宮理実(こみやりみ)
料理研究家。おせち料理の専門家として、新聞・テレビ・ラジオへ多数出演。京都で料理教室「福千鳥」(会員制)を主宰。おせち料理や節句の食など、日本文化や季節感を大切にした行事食を伝える活動を行う。
1971年・京都室町生まれ。
2018年11月30日、小宮真由から小宮理実(こみやりみ)に活動名を改名しました。