愛らしいひな祭り
京都在住の料理研究家・小宮真由です。
草木も芽吹きはじめ、
春らしい季節がやってきました。
少しずつ、日も長くなり
空を見上げながら「早く暖かくならないかなぁ〜」と
思いながら過ごしています。
さて、弥生といえば三月三日のひな祭り。
五節供のひとつ「上巳の節供」です。
この日は、女の子の健やかなる成長を願い
ひな人形を飾り、愛らしい御膳を供えてお祝いをします。
おひなさんと言えば、
母がよく、ばらずしをこしらえてくれました。
見た目は案外シンプルで
錦糸玉子にうすい豆、椎茸の甘煮、紅しょうがだけ。
ご家庭により具はいろいろですが
京都のお寿司らしいと言えば、生ものは使いません。
そして、錦糸玉子の下に隠れる酢飯もお味の決め手。
甘辛く煮た好みの具を混ぜこみ、
風味豊かに仕上げます。
具には、干瓢、椎茸、おじゃこを。
私の代から、甘酢に漬けた蓮根をこまこう刻んで加えています。
これがしゃりしゃりとして、美味しいんですよ。
そして、道具といえば、サワラの半切り(すし桶)もなくてはならない存在。
酢飯へ清々しい木の香りを移してくれる名脇役です。
黄色い錦糸玉子は、春の華やぎそのもの。
バランス次第でばらずし全体の印象を決め、
酢飯と海苔の仲を取り持ってくれます。
錦糸玉子は、特に丁寧に焼くように心掛けています。
玉子焼き器へ油をなじませ、溶いた卵を流し入れます。
「ジュー」「パチパチ」とよい音が聞こえてきたら、
ここがポイント。
裏返して、もう片面も軽く焼きます。
このひと手間で、香ばしい風味が加わり
あのぬく温かい玉子のおいしさが生まれるのです。
おひなさんと言えば、てっぱいを忘れてはいけません。
てっぱい、またの名をてっぽう和え、そう酢味噌和えのこと。
西京味噌とからしを酢で溶いて、味醂や砂糖で好みのお味へ調えます。
我が家はやや甘めがお気に入り。
今回は若みどりのワケギを湯がいて、
おかあげ(ザルにあげて食材を冷ますこと)をして
カリッと焼いたお揚げさんと一緒に和えました。
お酒と共に楽しむときは、赤貝やとり貝を加えます。
貝は、一度酢洗いをすると
洗練された味わいになりますよ。
年に一度のご褒美に、
桑名のはまぐりを取り寄せておつゆを作ります。
貝のうまみに手助けされて出汁いらずのおいしさ。
大人になると、貝の味わいに感動することも多く、
「春におひなさんがあってよかったぁ」
……今や愛らしさよりも、食いしん坊が優先?
いえいえ、日々の喧騒から離れて
おままごとのような愛らしい世界に浸る
ひな祭りは、これからも大切にしたい。
京都らしいと言えば、ひな人形の立ち位置にも現れています。
男雛は左に、女雛は右。
左大臣が右大臣よりも位が高いように、
昔は左が上位でした。
京都ではそのままひな人形の並ぶ位置にも残っています。
ちなみに、明治になり西洋の様式を導入した東京では
男雛が右、女雛を左に置くようになりました。
こうした風習を知ることも、
ひな祭りの存在意義に思えます。
白酒をいただき、ぽっ〜と頬をあかくしていた
幼き頃を思い出しながら
きょうはこの辺りで……。
京都からお味噌ふくふく便りでした。
料理研究家 小宮理実(こみやりみ)
料理研究家。おせち料理の専門家として、新聞・テレビ・ラジオへ多数出演。京都で料理教室「福千鳥」(会員制)を主宰。おせち料理や節句の食など、日本文化や季節感を大切にした行事食を伝える活動を行う。
1971年・京都室町生まれ。
2018年11月30日、小宮真由から小宮理実(こみやりみ)に活動名を改名しました。