愛らしいひな祭り
京都在住の料理研究家・小宮真由です。
草木も芽吹きはじめ、
春らしい季節がやってきました。
少しずつ、日も長くなり
空を見上げながら「早く暖かくならないかなぁ〜」と
思いながら過ごしています。
さて、弥生といえば三月三日のひな祭り。
五節供のひとつ「上巳の節供」です。
この日は、女の子の健やかなる成長を願い
ひな人形を飾り、愛らしい御膳を供えてお祝いをします。
おひなさんと言えば、
母がよく、ばらずしをこしらえてくれました。
見た目は案外シンプルで
錦糸玉子にうすい豆、椎茸の甘煮、紅しょうがだけ。
ご家庭により具はいろいろですが
京都のお寿司らしいと言えば、生ものは使いません。
そして、錦糸玉子の下に隠れる酢飯もお味の決め手。
甘辛く煮た好みの具を混ぜこみ、
風味豊かに仕上げます。
![](/asset/images/fukufuku/6/ph_1.jpg)
具には、干瓢、椎茸、おじゃこを。
私の代から、甘酢に漬けた蓮根をこまこう刻んで加えています。
これがしゃりしゃりとして、美味しいんですよ。
![](/asset/images/fukufuku/6/ph_2.jpg)
そして、道具といえば、サワラの半切り(すし桶)もなくてはならない存在。
酢飯へ清々しい木の香りを移してくれる名脇役です。
黄色い錦糸玉子は、春の華やぎそのもの。
バランス次第でばらずし全体の印象を決め、
酢飯と海苔の仲を取り持ってくれます。
錦糸玉子は、特に丁寧に焼くように心掛けています。
玉子焼き器へ油をなじませ、溶いた卵を流し入れます。
「ジュー」「パチパチ」とよい音が聞こえてきたら、
ここがポイント。
裏返して、もう片面も軽く焼きます。
このひと手間で、香ばしい風味が加わり
あのぬく温かい玉子のおいしさが生まれるのです。
![](/asset/images/fukufuku/6/ph_3.jpg)
おひなさんと言えば、てっぱいを忘れてはいけません。
てっぱい、またの名をてっぽう和え、そう酢味噌和えのこと。
西京味噌とからしを酢で溶いて、味醂や砂糖で好みのお味へ調えます。
我が家はやや甘めがお気に入り。
今回は若みどりのワケギを湯がいて、
おかあげ(ザルにあげて食材を冷ますこと)をして
カリッと焼いたお揚げさんと一緒に和えました。
お酒と共に楽しむときは、赤貝やとり貝を加えます。
貝は、一度酢洗いをすると
洗練された味わいになりますよ。
![](/asset/images/fukufuku/6/ph_4.jpg)
年に一度のご褒美に、
桑名のはまぐりを取り寄せておつゆを作ります。
貝のうまみに手助けされて出汁いらずのおいしさ。
大人になると、貝の味わいに感動することも多く、
「春におひなさんがあってよかったぁ」
……今や愛らしさよりも、食いしん坊が優先?
![](/asset/images/fukufuku/6/ph_5.jpg)
いえいえ、日々の喧騒から離れて
おままごとのような愛らしい世界に浸る
ひな祭りは、これからも大切にしたい。
京都らしいと言えば、ひな人形の立ち位置にも現れています。
男雛は左に、女雛は右。
左大臣が右大臣よりも位が高いように、
昔は左が上位でした。
京都ではそのままひな人形の並ぶ位置にも残っています。
ちなみに、明治になり西洋の様式を導入した東京では
男雛が右、女雛を左に置くようになりました。
こうした風習を知ることも、
ひな祭りの存在意義に思えます。
白酒をいただき、ぽっ〜と頬をあかくしていた
幼き頃を思い出しながら
きょうはこの辺りで……。
京都からお味噌ふくふく便りでした。
![](../asset/images/fukufuku/common/img_komiya.jpg)
料理研究家 小宮理実(こみやりみ)
料理研究家。おせち料理の専門家として、新聞・テレビ・ラジオへ多数出演。京都で料理教室「福千鳥」(会員制)を主宰。おせち料理や節句の食など、日本文化や季節感を大切にした行事食を伝える活動を行う。
1971年・京都室町生まれ。
2018年11月30日、小宮真由から小宮理実(こみやりみ)に活動名を改名しました。