小宮理実のお味噌ふくふく便り

祇園祭は、鱧カツで決まり

2019.06.20

京都在住の料理研究家・小宮理実です。

暦の上では夏ですが、まだ梅雨の時期でもあり、晴れ間は少なめ。
しとしと降り注ぐ恵みの雨に感謝をしつつも、
勝手なもので、晴れないと洗濯物が乾かない、お布団も干せないと、
天気予報とにらめっこしながら過ごしています。

京都では、6月も後半を迎えると、
祇園祭にむけてお囃子の稽古が行われるようになり、
街なかに、コンチキチンの音が聞こえてきます。
あ~、この音、この風情、いいものだなぁと、
年々、お祭りの良さを肌身で感じるようになりました。
しみじみしてしまう回数が多くなり、
年齢と共に、心の機微も成長中ということでしょうか。

そして、祇園祭といえば、やっぱり鱧。
「鱧おとし」は、京都の夏を彷彿させるお料理の代表です。
湯引きしたふわふわな鱧には、
梅肉が合うんですよね。
鱧の白と、梅肉の赤のコントラストも清々しくて、
毎年、目にするたびに、嬉しくなるものです。

鱧の特徴のひとつは、あの骨の多さ。
料理人でも、鱧の骨切りには高度な技術を要しますので、
家庭では、事前に骨切りがされたものを買い求めます。
鱧を、どうやっていただこうかという時に思い出すのが、
子供の頃からのお気に入りの「鱧カツ」です。

母がよく作ってくれた大好物ですが、私は健康を考慮して、
揚げ油をオリーブオイルにチェンジ。
サクサクの状態、きつね色に揚げます。

オリーブオイルで揚げた鱧カツのおいしいこと。
ごはんにも合いますが、昔ながらのコッペパンを買い求め、
包丁で真ん中に切れめをいれ、
その中にキャベツの千切り、新玉ねぎのスライス、
熱々の鱧カツをはさみます。

そうそう、きゅうりもスライスして、彩りに加えたいところなのですが、
ここは、「待った」。

祇園祭の期間中は、祭りに関わるみなさんはきゅうりを口にしない方が多いのです。
理由は、きゅうりの切り口が、八坂神社の神紋に似ていることから。
敬う気持ちを大切にしたいと、現在も大切に受け継がれている風習のひとつなんですよ。
わたしも祇園祭を愛する者のひとりとして、
あえて、この鱧カツサンドにきゅうりをはさむのはやめています。

そして登場するのが、西京味噌のソース。
西京味噌に酢をきかせ、粒マスタードを加えます。
ほんのり甘いお味噌のなかに、
酢の酸味と、粒マスタードの辛味がアクセントとなり、絶妙なおいしさ。
鱧カツや野菜とも相性抜群なんです。
口にしたみんなの、目が大きくなる瞬間が見たくて、
この味この味と、毎年、夏のご馳走として食卓に登場させています。

祇園祭の音色と共にやってくる、家庭で作る「鱧カツ」。
調味料が豊かに揃う今の時代だからこそ、生まれた味わいが、
皆さんの食卓でも、愛されるといいな……。

夏の京都から、お味噌ふくふく便りでした。

料理研究家 小宮理実(こみやりみ)

料理研究家。おせち料理の専門家として、新聞・テレビ・ラジオへ多数出演。京都で料理教室「福千鳥」(会員制)を主宰。おせち料理や節句の食など、日本文化や季節感を大切にした行事食を伝える活動を行う。
1971年・京都室町生まれ。
2018年11月30日、小宮真由から小宮理実(こみやりみ)に活動名を改名しました。

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