小宮理実のお味噌ふくふく便り

中秋の名月

2020.09.24

京都在住の料理研究家・小宮理実です。

季節はすっかり秋。お彼岸も過ぎ、次のお楽しみはお月見ですね。
夜空に浮かぶ月を眺め、池の水面や盃の酒に映る月を愛でながら酒を酌み交わすようになったのは平安時代から。優雅な風習は貴族たちのこころに深く響いたようです。

さて、令和二年の「中秋の名月」は、10月1日にあたります。
きれいな満月が見られる中秋の名月は、またの名を「十五夜」と呼び、ひと文字違いの「仲秋の名月」は、二十四節気の白露(9月7日~10月7日前後)の期間を指します。
読み方は同じでも、日を示す「中秋」に対して、期間を指す「仲秋」。案外、知らないことのひとつなのかもしれません。

お月見のしつらえに欠かせないのが、芒(すすき)に「月見団子」。そして、小芋でつくる「きぬかつぎ」です。
今回は、きぬかつぎの上にほんのり甘い西京味噌を酒とみりんで溶いたものをのせ、ケシの実をふってみました。

俵形にしたお団子にこし餡を巻いた月見団子は、京都でよく目にするもの。他の地域は、丸いお団子を三角につみあげたお月見団子が主流なのではないでしょうか? こし餡をのせた月見団子は、きぬかつぎに見立ててこのような形になったようです。

また、十五夜の頃は、間もなく迎える稲の収穫を無事に終えられるようにと、収穫前の喜びや感謝を分かち合う日でもありました。行事にお供えするものには、自然を敬い感謝をする気持ちが込められているのですね。

どうか今年も、豊かに実った稲が収穫されることを切に願います。
子どもの頃から当たり前に触れてきた、昔ながらの行事や食でしたが、意味を知るようになり、なんて素敵なのだろうと、魅了されるようになりました。

さて、せっかくなので、中秋の名月を祝う家庭料理を用意することにしました。
本日の主役「小芋」には、京都人が好きな牛肉を加え、おだしで炊き合わせることに。皮をむいた小芋は下茹でをしてから、お出汁で煮含めます。小芋に串が通ったころに牛肉を加え、乳白色の西京味噌を溶いています。

お味噌は風味を生かすためにも最後に加えるのがポイントです。緑色が美しい、茹でたいんげん豆を添えて、はい、完成です。

他には、時節の枝豆ごはんにごぼうとお揚げのお味噌汁はいかがでしょう。十五夜のあとに訪れる十三夜には枝豆をお供えすることから、次につなぐ意味もこめてみました。

月を愛でながらいただく食卓。さて、どんな会話が繰り広げられるのかな。昔の人は偉かった……と、知恵と工夫のすばらしさについて語り合ってみましょうか。きっと何か大切なことに気が付く、しっとりとした秋の夜長になるはずです。

京都から、心優しく「お味噌ふくふく便り」でした。

料理研究家 小宮理実(こみやりみ)

料理研究家。おせち料理の専門家として、新聞・テレビ・ラジオへ多数出演。京都で料理教室「福千鳥」(会員制)を主宰。おせち料理や節句の食など、日本文化や季節感を大切にした行事食を伝える活動を行う。
1971年・京都室町生まれ。
2018年11月30日、小宮真由から小宮理実(こみやりみ)に活動名を改名しました。

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