小宮理実のお味噌ふくふく便り

重陽の節供

2019.09.03

京都在住の料理研究家・小宮理実です。

9月に入り、朝晩が涼しくなりましたね。
暑い夏も終えて、少しほっとした気持ちで過ごしています。

我が家のちいさなニュースと言えば
庭先の鈴虫達が鳴き始めたことでしょうか。
耳を澄まして聞いていると
なんとも清らかな優しい気持ちになります。

さて、食事の面での秋の訪れと言えば忘れてはならないのが五節供の最後のひとつ、「重陽の節供」(ちょうようのせっく)です。

9月9日は、中国の陰陽道では陽数である奇数の極まった数、「九」が重なることから「重陽」(ちょうよう)と言い、不老長寿を願う節供とされてきました。

この日は、邪気を祓い、長生きの効能があるとされている菊を、食材として活用するお料理が親しまれています。

今回は、菊の花を加えた「ほうれん草と椎茸の煮浸し」に、菊の香りを酒に移していただく「菊酒」をご用意しました。

菊を、愛でる、香る、食する。
まさに、重陽ならではのお楽しみ!

実は、菊以外にもこの節供に関連深い食材に、「栗」があります。
重陽の節供は、またの名を「栗節供」と言うくらい、栗が用いられます。
我が家はさらに小豆の力を加えて、
邪気祓いも兼ねた「栗赤飯」がお決まりです。

そう、この時の栗ですが、台風が来る前の新栗がよいと言われてきました。
その理由は、台風が来ると栗の中に虫が入ってしまい、お味が落ちてしまうから。
なるほど! 確かに、虫が入る前の栗はおいしい!
虫も安全な場所をよくわかっていますよね。

この事をはじめて知った時、驚き以上に嬉しさが込み上げてきて、
行事食を作るだけでなく、意味もお伝えできるようになりたいと、いまに至りました。
私にとって、9月9日は初心に戻る日でもあるんです。

さて、重陽にいただくとよい食べ物がもうひとつあります。
それは「茄子」です。
よく言われるのが、「秋茄子は嫁に食わすな」。
こちらも諸説ありますが、まぁ、秋の茄子はそれくらい美味しいと言うこと。

また、この時期の茄子を食べると、冬に風邪をひかないとも言い伝えられてきました。
そう考えると、時節の食べ物は、いつの時代も最高のご馳走と言うわけですよね。

今回は、おいしいお出汁に上品な甘さの西京味噌を溶いて、茄子のお味噌汁にしてみました。
お揚げさんを加えてコクもプラス。京都らしいひと品に。

秋の節供のお料理は、見た目の華美さはないけれど、
休息するにはいい献立です。
気張らない、でもしみじみおいしい。
家族の健康を願い作る、いわれ深いお料理。
重陽の節供は、夏の疲れを癒す日として
過ごしてみてはいかがでしょうか?

食から日常を見つめてみる。
京都から、お味噌ふくふく便りでした。

料理研究家 小宮理実(こみやりみ)

料理研究家。おせち料理の専門家として、新聞・テレビ・ラジオへ多数出演。京都で料理教室「福千鳥」(会員制)を主宰。おせち料理や節句の食など、日本文化や季節感を大切にした行事食を伝える活動を行う。
1971年・京都室町生まれ。
2018年11月30日、小宮真由から小宮理実(こみやりみ)に活動名を改名しました。

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