小宮真由のお味噌ふくふく便り

夏越の祓え

2018.06.18

京都在住の料理研究家・小宮真由です。

京都では、6月を迎えると街の和菓子屋さんでは
「水無月あります」の張り紙をよく目にするようになります。
ご存知の方も多いかと思いますが、水無月は白いういろうの上に甘く煮た小豆をのせて蒸したお菓子。
もちもちとした食感と、小豆の甘さが口の中で広がる感覚は
どこか懐かしいような、身近な味わいです。
見た目に涼しそうなことからも、この季節にぴったりですね。

水無月はご家庭で手づくりすることもできます。
ういろうは上新粉と薄力粉でつくります。加える甘さはお好みで。
今回は、ういろう生地に西京味噌を加えた「味噌水無月」をこしらえてみました。
蒸すこと約30分、その後冷ましてからいただきます。
西京味噌の芳醇な香りと風味を効かせたういろうが、小豆の甘みと相まって絶妙なバランス。西京味噌が大変いいお役目をしてくれました。おいしい。
色もほんのりとした乳白色に仕上がりました。
そう、小豆は煮る手間を短縮してくれる甘納豆を使用することもポイントです。

かたちは三角形がお決まりですが、なぜ三角かと申しますと、
こちらには深い意味が。
水無月は、氷に見立てたお菓子だからなんです。
確かに丸いよりも、三角の方が氷っぽいですよね。

平安時代、夏へと向かう6月1日は、
冬の間に貯蔵しておいた氷を氷室から出して
宮中から臣下へ褒美として分け与え、暑気払いをする日だったことから、この日を「氷の朔日(ついたち)」と呼び、氷の節会が行われました。新暦の今なら、ちょうど7月の半ばです。
貴重な氷を授かることができるのは、ごく限られた人たち。
そこで庶民は、氷の代わりに、氷に見立てて麦粉などを三角形に固めて口にするようになったと言われています。

水無月になくてはならないのが小豆の存在。
それは、小豆には邪気を祓う効力があると考えられてきたからなのです。
特に小豆の赤色には、災いを除く霊力が宿っているとされました。
そういえば、お祝いごとや節目にいただく食には、
小豆を使った食べ物が多いですよね。

また、1年の半分の節目にあたる6月30日は大晦日と同じ意味を持ち、
新しく迎え来る半年のために、それまでの穢れを祓う必要があると考えられてきました。

夏を迎え、疫病が多くなることもあり、
茅(ちがや)でつくった茅(ち)の輪をくぐることで身体を清め、
残りの半年がより豊かな時間になるようにと願いを込めた、
それが、夏越の祓えです。

現在、京都で暮らすわたしの地域では、
人形(ひとがた)の紙に名前と年齢を書き入れ、穢れを祓う風習が残っています。
わたしも毎年、氏神様で茅の輪をくぐることを恒例行事にしています。

こうした流れが現在に至って
夏越の祓えが行われる6月30日に和菓子の水無月をいただくようになりました。

節目の日の食べ物には、願いを叶えたり、邪気祓いの意味までこもっています。
いわれを知ることで、
遥か遠き平安時代の人たちと気持ちの共有ができてしまう。
あらためて素晴らしいことだと思わずにはいられません。

6月30日は、水無月をいただいて
残りの半年も無事に過ごしたいものですね。

京都から、お味噌ふくふく便りでした。

料理研究家 小宮真由(こみやまゆ)

料理研究家。おせち料理の専門家として、新聞・テレビ・ラジオへ多数出演。京都で料理教室「福千鳥」(会員制)を主宰。おせち料理や節句の食など、日本文化や季節感を大切にした行事食を伝える活動を行う。
1971年・京都室町生まれ。

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